
ロゴ刷新は経営戦略
― ブランドを可視化するVIデザインのプロセス
「ロゴなんて、センスの良いデザイナーに頼めば2週間で完成する」。もしそうお考えであれば、その認識を少し変えていただく必要があるかもしれません。実は、企業の顔となるロゴ制作は、最短でも半年、長ければ1年以上を要する一大プロジェクトです。
単なる図形の作成ではなく、経営理念の可視化や商標リスクの回避、そして0.001mm単位の微調整による「精緻化(せいちか)」など、そこにはプロフェッショナルならではの緻密な設計が存在します。
ここでは、1980年代から続くたきコーポレーションのVI(ビジュアル・アイデンティティ)開発の知見を受け継ぎ、日々さまざまなクライアントのVI開発に取り組むIGIのブランドクリエイティブ部責任者・大入将太郎が、ロゴ制作の裏側と、経営戦略としてのデザインプロセスを解説します。

Speaker
2003年TAKI CORPORATION入社。
パーパス開発からVI、クリエイティブ制作までを一貫してディレクションする。近年では、ブランドムービーの企画制作に注力。ブランディングセミナーへの登壇も積極的に行なっている。
Google premium partner award 2022、SSFF & ASIA BRANDED SHORTS 2022 受賞など
ビジュアル・アイデンティティ(VI)とは?
多くのクライアントから「ロゴを作りたい」とご相談をいただきますが、私たちが設計するのは単なるロゴマークだけではありません。「VI(ビジュアル・アイデンティティ)」という、ブランドの価値を可視化したデザイン要素一式をご提案しています。

worksはこちら→ https://igi.taki.co.jp/case/t/vi
具体的には以下の要素で構成されます。
ビジュアル・アイデンティティ(VI)の構成要素
・ロゴ(シンボルマーク + ロゴタイプ)
・ブランドカラー
・指定書体
・グラフィックエレメント
つまり、ブランドの価値を可視化したデザイン要素一式が、VIです。
ロゴはその中核ですが、色、書体、展開パターンまでを含めて緻密に設計し、経営の意思を視覚化するからこそ、制作には相応の工程が必要になるのです。
開発プロセス:なぜ「半年」もかかるのか?
プロジェクト開始時に驚かれることが多いのが、そのスケジュール感です。私たちは以下のステップを確実に踏むことで、強度の高いアウトプットを提供しています。

0 キックオフ:開発目的の明確化とスケジュールの合意
1 リサーチ(調査・分析):現状把握、競合調査、アンケート、インタビュー
2 VI開発(デザイン):コンセプト立案から造形への落とし込み
3 システム:VIマニュアル制作
4 アイテム開発:名刺や封筒、ショッパーなどへの開発
特に大切なのが、デザインの前段階である「調査」と「確認」の期間です。
リサーチと戦略:「解像度」を高める準備
ご要望を受けてすぐにデザインを進行することはありません。まずは徹底的な「棚卸し」を行います。
経営層インタビューと現場の声
ロゴは中長期的なビジョンの象徴です。そのため、社長をはじめ経営層へのインタビューを行い、目指すべき姿を言語化します。
一方で、全社員アンケートを実施し、社員の想いをロゴ案の要素に取り入れることもあります。この取り組みは「インナーブランディング(理念浸透)」の機会として活用する手法にもなります。

現地監査による「使用環境」の把握
現在ロゴが使われている場所(会社の看板、名刺、ウェブサイトなど)を調査し、「最大サイズ」と「最小サイズ」を把握します。
例えば、遠くから見る看板に使われる場合、複雑すぎる形状では視認性が落ちてしまいます。「どこで、どう使われるか」を最初に把握することが、機能的なデザインへの第一歩です。

「ブランド・パーソナリティ」の定義
デザインの方向性を決める際、私たちは「人格(アーキタイプ)」を定義するカードを用いたワークショップを行うことがあります。

「支援者」のような人格なのか、「探検家」のような人格なのか?
なぜその人格を選んだのか?
感覚的な「好き嫌い」ではなく、人格という「トーン&マナーの基準」を最初に設けることで、デザインが迷走した時にいつでも立ち戻れる原点を作ります。
キーワードの抽出
先ほど選んだ人格カードの理由から、重要なキーワードを抜き出します。例えば「支援者」を選んだ理由が「お客様に寄り添いたいから」であれば、「フレンドリー」「親しみやすさ」といったイメージワードが抽出されます。逆に「スマートに見せたいけれど、冷たくはしたくない」といった微細なニュアンスもここで言語化します。
デザイン戦略:言葉を「視覚」に翻訳する
ブランドパーソナリティが決まったら、次はその抽象的な概念を具体的なデザイン要素へと翻訳していきます。このプロセスこそが、ロゴに説得力を与える鍵となります。
書体のセレクト
抽出したキーワードを基に、ベースとなる書体を選定します。
いきなりオリジナルの文字を作るのではなく、まずは既存の書体を用いて「この方向性で合っていますか?」という認識のすり合わせを行います。「先進的」なら〇〇体、「伝統的」なら〇〇体など、キーワードと書体の持つイメージを合致させていきます。

図式のアイデア
「先進」と「柔軟」という2つのキーワードがあった場合、それをどう一つの図形に落とし込むか。単純に足し算すれば良い形になるとは限りません。どの要素を優先するか、どのような図形ならその概念を表現できるか。いくつもの図式のアイデアを出しながら、最適な形状を探ります。

徹底したカラー検証
「青がいい」といった感覚だけで色は決定しません。競合他社のロゴカラーをマッピングし、差別化できるポジションを探ります。その上で、例えば「信頼感のある青」と言っても無限の色味があります。そこで、色の濃度を数パーセント刻みで調整したカラーチップを並べ、どの青が最もブランドにふさわしいか、緻密な検証を行います。

精緻化:0.001mmの調整が生む「品格」
方向性が固まった後に行うのが、VIデザイナーによる「精緻化」という工程です。これは、0.001mm単位でデータを微調整する作業ですが、単に数値を整えるのではありません。「人間の目の錯覚」を補正し、視覚的な安定感を作る高度な技術です。デザインの決定後、長期使用に耐えうるよう、造形的・システム的に精度を高めていく。この「強度」を作る作業こそが、精緻化の本質です。
「数値上の正しさ」より「見た目の正しさ」
数値通りに作った図形は、人間の目には歪んで見えることがあります。


ここでは、遠くからでもハッキリとそのロゴだと分かる「視認性」の確保や、「視覚的に同じ高さ・大きさに見せる」「接合部分を調整する」といった、形状の精緻化を行います。
既存のフォントは「文章として組む」ために作られていますが、ロゴは「その並びで固定」されるものです。文字同士の相性を極限まで高め、耐久性のある塊としての強度を持たせる。これが専門家による「精緻化」です。
運用:マニュアル化でブランドを守る
ロゴは完成して終わりではありません。せっかくいいロゴを作っても、きちんと運用されなければ意味がなくなってしまいます。
メディアが多様化している現在、いかなる媒体においても視覚的印象を統一することが重要です。しかし、社内外のさまざまな人が使用する中で、勝手に変形されたり色が変えられたりすると、ブランドイメージは崩れてしまいます。
これを防ぐために「VIマニュアル」を策定します。
例えば、ロゴの周囲に確保すべき余白(アイソレーション)を定義し、誰が扱ってもブランドの品格が保たれるルールを設計します。近年ではSNSでの表示ルールなども不可欠です。

「商標調査」という必須のリスクヘッジ
また、どんなに素晴らしいデザインができても、他社の権利を侵害していては企業にとって致命的なリスク(使用差し止めや損害賠償)となります。 そのため、法務部や弁理士と連携した「商標調査」は必須です。
簡易調査(同業種・業態のみ):約1週間
全数調査(日本国内全域):約2週間
海外調査:2〜3ヶ月
※記載内容は目安です。状況により異なる場合があります。
この調査期間を初期段階で正しく見込んでおくことが、プロジェクトを安全に進める鍵となります。
なぜ今、リニューアルが必要なのか? IGIが提供する「資産」としてのロゴ
「ロゴを変えたいが、社内を説得できない」というご相談をよくいただきます。 ロゴの刷新は単なるデザイン変更ではなく、以下の経営課題を解決する重要な戦略です。
【リニューアルが解決する経営課題】
・理念と実態の不一致を解消:事業拡大や理念の変更に合わせ、ロゴを再定義することで、ブランドのズレを解消します。
・時代への適合(現代化):デジタルデバイスでの視認性を高めるフラット化といった時代に即したアップデートで企業の先進性をアピールします。
・社員の意識変革:新しい旗印はモチベーション向上につながり、理念の自分ごと化や自発的な行動変容を促します。
こうした課題解決のため、私たちIGIは単なるグラフィック作成ではなく、経営理念を長期的に機能する「資産」として定着させる専門家集団として、以下の価値を提供します。
【IGIに依頼するメリット:デザイン先行ではない「資産」づくり】
・理念の可視化:デザイン先行ではなく、徹底したヒアリングから「なぜこの形なのか」を論理的に構築します。
・耐久性を生む「精緻化」:一般的なデザイナーとは異なる専門スキルで0.001mm単位の微調整を行い、いかなるメディアでも視認性を担保します。
・運用を守るマニュアル:作って終わりではなく、多様なメディア展開を見据えた実用的なマニュアルを策定し、ブランドの価値を守り抜きます。

10年先も古びない「強度」のある資産を
流行のデザインを取り入れることも一つの選択ですが、企業ロゴは長く使い続ける資産です。5年後、10年後に「古い」と感じられてしまってはブランドにとってもいいこととは言えません。
私たちは、1980年代から続く「VIデザイナー」という専門職の知見を受け継いでいます。
一過性の流行ではなく、長期使用に耐えうる「強度の高いデザイン」を、「ブランドデザインパートナー」として共に作り上げたいと考えています。
ロゴ制作に関するお悩みやご質問があれば、まずはお気軽にご相談ください。
(IGI ブランドクリエイティブ部 部長 大入将太郎)
編集:船寄 洋之

