ブランドデザインカンパニー「IGI」- IGI Brand Design Partner
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ロゴにも「ととのう」時がある!?
神業といわれる“精緻化”を掘る!

ロゴをつくったあとにはじまる“精緻化(せいちか)”という仕上げプロセス。CIブームの時代からロゴ制作に深く携わっているIGIのVIデザインチームだからこそのプロセスによりロゴが気持ち良く「ととのう」そう。作業は細部にわたり、神の領域なんだとか!IGIのロゴ発案者で精緻化を担当したデザイナーと、早起きが苦手なCBOに、朝から深イイ話、聞いちゃいました。

CBO / Creative Director

木村 高典Takanori Kimura
2004年たき工房入社。
広告のクリエイティブ全般の企画・デザインに携わる。2014年から企業・団体のブランデイングに従事。ブランド・アナリストとして、デザインブランディングで企業の未来を設計する。JAGDA会員。NY ADC, Clio Awards, LIA, ADFEST, HKDA global design awards, One Show Design, A’l1pick Awards等受賞

Chief Designer

桑原 詩織Shiori Kuwahara
多摩美術大学彫刻学科修士課程修了。ブランディングデザイン会社を経て2018年たき工房CI/VI専門チームへ参加。思いを汲み取った共感性の高い提案を得意とし、ロゴ・サイン・パッケージ・アプリケーション・ガイドライン制作など幅広い領域を担当。

そもそも精緻化(せいちか)ってなじみのない言葉だと思うんですが、どんなことをいうんですか?

木村:えーと。案が決まった上で、よりよくしていくというか。ちゃんと説明するの難しいですね。

桑原:おはようございます、木村さん。朝が苦手な木村さんの代わりに、今、流行っているchatGPTで調べてみましょうか(笑)。

(スマホで調べてみる・・・)

桑原:こう言ってます。


一同:なるほど。わかりやすい!

今回はデザイン領域での精緻化の話をしていこうと。chatGPTが言ってる通り、手間はかかるけど、高品質をめざしていくための工程ということですね。

木村:具体的に言うと、ロゴで使う書体の角を整えるとか、0.01mm単位で太さ調整するとかね。

イメージがわいてきました。今回、IGIのロゴに桑原さんの案が採用されて、桑原さんが案を精緻化するプロセスを担当されていますけど、票が集まってどんな気持ちでした?

桑原:IGIのロゴは一次選考の段階で80案ほどあって私は3案出しました。最終の2案が私の案だったのですが、そのうち1つはとてもシンプルな案だったので、正直こういう案で溢れかえってこの案は残らないだろうなと思ってたんです。でも他の人の案が意外に装飾性の高いものが多かったので、逆にシンプルなのが目立って良かったのかなと思いました。

木村:社名のネーミングのときと同じように素直なものと捻ったものの。対極にあるものが残るというか・・・

桑原:そうでしたね。ロゴも2方向でみんなの気持ちが揺れるだろうと。だから、スマートさ、シンプルさが強いものと、「なんじゃこりゃ」っていうデザイン性が高いものと、その中間の雰囲気を出した案の、3案を出したんです。中間の案は初回の選考で落ちちゃったんで、きっとこの会社のデザインの猛者たちが、“こういう中途半端なのはだめ!”って落としたんだろうと思って納得しました。

一同:(笑)

桑原:ロゴって、手を動かす前の段階で、想像以上に手間と時間がかかるんですよね。基本的にロゴつくるときに大切にしているのは、その会社の人にとってどんな会社なのかと、まわりの人たちからどう見られるべきなのか。今回も仕事と同じように“こういうことが選考においては必要だろうな”って、想像しながらつくっていきました。“デザインして終わり”になるわけではなくて、つくったあとの展開のされ方とか、まずは粗削りであっても想像して取り組むことは必要ですね。

先まで見据えてつくっていくんですね。木村さんはIGIのCBOとして、“こういうロゴになってほしい”というのはあったんですか?

木村:心づもり、腹づもりとしてはありました。結果的には見込み通りでした。桑原さんが言う通り、使われ方が命、なんですよね。どう展開していくかを考えていったときに、いいものができた。フラットでニュートラルなものができた。と感じてます。

見込み通り、ということですね。

木村:ロゴ制作のアイデア出しをする前に、僕はデザイナーたちへ、“登場のインパクトが必要”って、方針を伝えたんですよ。だからどうやって印象付けるかが、大切なわけで。どシンプルなものができたからこそ、そこに含みがあると思われる。だから今は裏読みを期待していますね。答え合わせをするようなことができるロゴです。

その会社の人にとってどんな会社なのかと、まわりの人たちからどう見られるべきなのか。(桑原)
どう展開していくかを考えていったときに、いいものができた。
フラットでニュートラルなものができた(木村)

精緻化の詳しい話の前に、ロゴのコンセプトづくりについてもう少し深く聞いていきたいんですが。IGIのロゴのポイントは、“完全数”と“柱”なのかな、って思うのですが、かたちから想像して、コンセプトは後でのせていくのですか?


桑原:正直このコンセプト、“完全数”は最初から考えていたんですけど、“柱”で2つのものをつなぐっていうことが、どれくらいみんなに響くのかイメージしきれていなかったんです。だから正直、自信がなかったです。

木村:でも、票が集まったってことは、コンセプトが、誰もが認める揺るぎないものだった、ってことで。自信もっていいと思いますよ。すごいおもしろいロゴだなと。円って“きゅん”ってまとまる感じもあるし、膨張もする。それを柱があることでどっちの力もまとめようと、形状を維持しようとする。調整が働いてるんですよ。外にむかう力と、内にむかう力。そういう感覚がロゴにも働いてると思いました。真っ白な紙の中央にポンと置いても、隅に置いても、効力を発揮するロゴだと思います。

桑原:ありがとうございます!私の場合、最初はけっこう、ガチガチにコンセプト固めるより、この企業にとって、このかたちはふさわしい、っていうのを大まかに考えてつくりはじめるんですよ。ただ、重要なポイントだけ頭に入れておくようにしています。私自身は、ロゴって、“エモーショナル”と“機能性”両方必要だと思ってるので、その軸と照らし合わせながら。

“エモーショナル”と、“機能性”ですか?

桑原:はい。どんな場面でも安定して使える“機能性”に対して、見た人の印象に残る“エモーショナル”。そのバランスをとることを意識しています。“機能性”にとらわれすぎると、つまらない仕上がりになるし、一方で、“エモーショナル”ばかり追い求めると視認性が悪くなったり、展開させづらかったり。

どちらか、二項対立ではなくて、バランスだと。

桑原:そうです。モヤモヤしているものを、いくつか抱えながら、バランスをとってこねこねしてく、感じ(笑)。

木村:分かるかも(笑)。モヤモヤをどうかたちにしてくか、ですよね。僕は言語化が得意じゃないタイプのデザイナーなので、コンセプトから入るより、ひらめきから入る方です。それで、案を絞り込む作業のときにコンセプトが登場します。コンセプトの中で手あたり次第やるんです。

木村さんの最近の朝の習慣は、ねこにエサをあげたり、コーヒーを丁寧に入れることって聞いてるんですが(笑)、ひらめきって、そういうときにおりてくる?

木村:ははは(笑)、ねこが食べてる姿とか、って、見てる時間は、たまらなくいいものですよ。これって、なんで、こうなんだっけ、とか、考える時間は大切かもしれません。落書きみたいな書き損じだけどこれ、なんでカッコいいんだろう、とか。うまくいくと、全てがいいかたちになる。でも、ひらめきだけに期待すると、僕の主観だけになるので、A案、B案、C案って、可能性をいくつか並べる。

桑原:そのA、B、Cみたいなのは、すごくよくわかります。私もヒアリングした後に“おさえでこれは必要”、“提案するならこれ”あとは、“これなら、びっくりするだろう”というものを挙げる。3方向で出すことを心がけているんです。今回のIGIのロゴもそうでしたから。

なるほど、3案出された案のバランスには、そういう意図があったんですね。確かに、企業に提案する際にも、比較しやすいような選択肢を提供することはいいですよね。

桑原:相手が大きい会社だと、決定者が一人じゃないことが多いので、ある程度、案に幅がないと議論にならなかったり。

木村:僕は案の幅って、インプット量に比例して生まれると思うんです。だから僕はたくさんのものを見て、自分で選別してます。

桑原:本当に何にも関係ないとこからものを見たり、すごい古い宗教画とか科学雑誌を見たり、あとは言葉から着想を得たり。

木村:言葉から得るのは、僕もやってます。僕の師匠もテキストからパクることはなんのパクリにもならない、って言ってました。要は、カタチに変換するので、問題ないってこと。楽曲のタイトルでコンセプチュアルなものからインスピレーションを得ることは多いです、僕の場合は。


ロゴって、“エモーショナル”と“機能性”両方必要(桑原)
インプット量に比例して幅は生まれる(木村)

かたちにした後、いよいよ精緻化なんですが、たきコーポレーションにはロゴを0.01mm単位で調整して仕上げていく“精緻化の神”と呼ばれる方がいるとか!?

桑原:呼ばれてはいないです。私たちが勝手にそう呼んでるだけの重鎮の方ですね。シャイなので表に出てこられることはあまりないんですが、私も含め、多くのVIデザイナーは技術を学びとろうと必死です。その“神”は精緻化の仕事は“散髪”に似ているって仰ってました。

散髪!?

桑原:髪を切るのも、うまい人が切ると、どれだけ伸びてもそんなにヘンにならない。ロゴも、細かいところを整えて、鍛え上げていくことで、耐久性の高いものになる、ということです。今回はシンプルなデザインだったので、精緻化の作業も本当に細かくて。例えば、(値として)均等な太さの円って、人間の目から見ると均等な太さに見えないんですよ。だから縦幅を調整したりして、視覚的に均等に見えるように、細かく調整していきました。

木村:理容師と美容師の違いってあるじゃないですか?それでいうと、理容師的な感じですよね。

桑原:確かにそうです。デザイナーは一般的に、美容師みたいにスタイルの提案から入っていきますよね。このあとデートがあるのか、ビジネスシーンで人と会うことが多い人なのか、とか、ヒアリングしながら髪を整えて、美しさも兼ね備えようとするのが美容師。一方で理容師は、現状を整える、というか、コンセプトを崩すまでは調整しないものの、よりよく、ピシッとしたかたちにもっていく。

木村:うんうん、提案段階から入るっていうのは、基本的なデザイナーのあり方だよね。一方で精緻化やるデザイナーはコンセプトにもとづいて、それをよりよくしていく。

精緻化の作業を端から見ていると、ほんの少しずつ足したり引いたりしながら、検証しているのだと思うのですけど、検証している途中で何がいいか分かんなくなっちゃうとか、ありますか?

桑原:めちゃめちゃ分かんなくなっちゃう(笑)。“神”からは、1回寝かせてリセットして、翌朝もう一度トライするといいって教えていただきました。果てしなくて、終わりを決めるのが難しい作業なので、いつも不安ですね。もっとやれることがあるんじゃないか、って。今回、正円にする作業があったんですけど、正円に見せるために縦線の調整をしてたら、“神”が「コンセプトが正円だから、正円は維持したまま調整したら?」ってアドバイスしてくださったんです。そういう細かいところって、人は無意識のうちに感じ取るものなんですよね。

木村:同感ですね~。僕にも精緻化の師匠がいて、Illustratorって64000%まで拡大できるんだけど、その方は、そこまで見ていて。20代の時、度肝を抜かれました。こういうことって、必要なんだ。突き詰めていくべきなんだって思いました。たとえて言うと、部屋に入った時、ホコリがきれいに取り払われた部屋って、なんか、空気がしーんとして、ピンとはりつめているというか、そういう感覚。だから精緻化は大事。その師匠も、“細部に神が宿る”って言ってました。

コンセプトを崩すまでは調整しないものの、よりよく、ピシッとしたかたちにもっていく。(桑原)
なんか、空気がしーんとして、ピンとはりつめているというか、そういう感覚。(木村)

散髪も、ピンとした空気感、っていうのも、分かる気がします。

木村:別の側面で精緻化の意義を考えると、ロゴだけで世の中に出ていくシーンって多くないんです。そういういろんな使われ方をしても違和感が出ないようにするっていうテクニックだと思うんですよ。

桑原:VIマニュアルつくっているときと同じ心持ちで、世の中に出ていった時のことを想像するのはホント大切だと思いますね。後でいろんな媒体に展開されたときに、ああ、こういうふうに使ってほしかったな、って思うこともあるので。これは、ディレクションしてあげたいって思うこともありますね。

改めて、先まで考えながらデザインすることの難しさとか、大切さがわかった気がします。

木村:今までは広告における課題解決って、“おいしそうなデザインをして売上をアップしてください”って頼まれて、それを満たすデザインを出しても成り立っちゃうんです。それで十分とされてきた。でも、ブランディングはそういう話じゃないはずなんです。ロゴ1つつくって、明日の売上をアップしてくださいって言われても難しいんだけど、その先に、企業がどうなっていくのかまで踏まえて想像していく。それによって企業が将来躍進するようにイメージしていく。私たちが「今より明るい未来をデザインする」って掲げている意義は、そういうところにあると思うんです。


桑原:商品が売れないからデザインでなんとかして、っていうのは、確かにありますよね。これからVIデザインは、もっとビジネスに入り込んだものを求められていくだろうと。商品と見せ方だけじゃなくて、そこにだれが関わって、社会の中でどういう姿になっていくためにそのデザインは介在するのか。それを考えることは必要ですよね。

木村:そうそう。たとえば、広告や商品パッケージをデザインしたときに、それを見てだれが傷つくかまで考える。パーパスを踏まえた提案をやろうと言い出してるIGIだからこそ、そこまで踏み込んで、エシカルなデザインというか、受け取り側の誰かのことまで見据えた提案を、世に送り出していけたらいいですよね、ホント。

本日はありがとうございました。

(文/つかもとちあき)

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