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日本における人的資本経営の潮流をパーパスブランディング視点で解説

人的資本経営という考え方が生まれた背景としては、「未来が不確かな現代(VUCA)に、多様な人材を活用して事業活動を継続させるため」ではあるのですが、本コラムでは割愛します。
それよりも、なぜ社会から注目されているのかという問いに対して、簡単に回答すると“投資家から情報開示が求められているから”です。

【欧米の流れ】
・2018年12月
国際標準化機構より「ISO30414」が策定され、欧州の一部企業ではISO30414に基づく情報開示が始まる。
※ISO30414とは、人材マネジメントの11領域について58の測定基準(メトリック)が示された、人的資本情報開示のガイドライン。
・2020年8月
米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対し、人的資本の情報開示を義務化。


このような欧米の流れに影響を受けて、日本でも人的資本経営への流れが生まれました。

【日本における流れ】
・2020年9月
経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表。
これを契機に日本国内でも人的資本情報開示の重要性が広がる。
・2022年5月
経済産業省が「人材版伊藤レポート2.0」を公表。
より具体的に3つの視点、5つの共通要素のフレームを公開し、実行するためのアイデアを示す。
・2022年8月
内閣官房が「人的資本可視化指針」を発表したことにより、日本でも人的資本の情報開示を進める企業が増える。
※開示が望ましい経営情報19項目について、「価値向上」「リスク管理」「独自性」「比較可能性」の4つの基準で分類。

アメリカでは上場企業に人的資本の情報開示が義務化され、日本でも情報開示をすることが望ましいとされていることが、注目されている理由なのです。もちろん、要請に合わせて情報開示だけすればよいという考え方では、人的資本経営を進めることはできないため、従来の経営スタイルとの比較を通じて解説していきます。

人的資本経営と従来の経営スタイルの比較

人的資本経営の説明に入る前に、「人的資源」と「人的資本」という言葉を説明します。
人的資源(Human Resource)
人材や人材が持つスキル・能力を資源(リソース)として捉える考え方。リソースという有限なものなので、なるべく効率的に使うことが良いとされる。
人的資本(Humah Capital)
人材のスキルや知識を資本(キャピタル)として位置付ける考え方。投資をして、キャピタルを増やす=価値を上げていくことが重要だとされる。

従来の経営スタイルはいうなれば、人的資源経営です。人材を「コストとして消費するもの」として扱い、コストを下げ効率を上げていく。悪い言い方をすれば、どれだけ安い賃金で効率よく働いてもらうのかに重点を置いています。
一方、人的資本経営では、人材を「企業の成長のために投資するもの」として扱うため、投資してその価値を向上していくことが求められます。
概念としてはわかりやすいし、共感しやすいと思います。しかし、具体的なイメージがわきづらいからこそ、この漠然とした考え方を日本において初めて説明したのが、経済産業省から公表されている「人材版伊藤レポート2.0」です。

「人材版伊藤レポート2.0」を読み解く

人材版伊藤レポート2.0では、人的資本経営実践のポイントを「3P・5Fモデル」として整理して紹介しています。この「3P・5Fモデル」は、人的資本経営が1つの図解でまとまっているという秀逸なモデルではあるものの、情報の量が多いため難解に感じる方もいるのではないでしょうか。そこで、今回はブランディングの視点でこの「3P・5Fモデル」をなるべく簡単に解釈して説明することを目指そうかと思います。


まず、「3P・5Fモデル」において、中心となるのが「要素①動的な人材ポートフォリオ」。「人材ポートフォリオ」とは、社内のどこに(部署や部門)、どのような人材が(職種やスキル)、どれくらい(人数や年数)いるかを示したものです。このポートフォリオを“動的に”「自社の未来に必要な状態に構築すること」が、人的資本経営の目的なのだと私は解釈しています。ここでいう “動的に”とは、常に適切な人材の再配置が可能な状態を意味しています。

次に、自社の未来に必要な「動的な人材ポートフォリオ」を構築するためには、2つの手法があります。それぞれ「内部調達」と「外部調達」です。「内部調達」とは、社内で育成やリスキルによって、必要な人材に育てることを指します。育てるといっても、現状の延長線上にないリスキルや、難易度の高い職務への配置転換の必要性も含まれますので、企業の未来が求める状態に、ドラスティックにスキルシフト・配置転換できるような環境や文化を醸成しなければなりません。一方、「外部調達」は採用やアウトソーシングから始まり、M&Aによる新たな労働力の獲得まで指します。こちらの方が直接的に予算をかけて取り組むことになるので、人的資本に投資しているというイメージが沸きやすいでしょう。さらに言うなれば、フリーランス雇用や副業・兼業など、新しい労働力の活用も考慮できると思われます。

最後にまとめると、人的資本経営の目的は

1) 現在の部門ごとに職種やスキルおよび人数が最適でない人材ポートフォリオを、
2) 内部調達と外部調達それぞれの可能性を考慮して、取り組むことで、
3) 自社の未来に必要な「動的な人材ポートフォリオ」に最適化させること

だといえます。

この目的を達成するために、「3P・5Fモデル」の要素を3つにグルーピングして解説します。

◎1つ目のグループは、〔視点1経営戦略と人材戦略の連動〕と〔視点2As is-To beギャップの定量把握〕。少し乱暴な言い方になるかもしれませんが、例えば経営企画部が作成した中期経営計画に合わせて、人事部が“中期”人事計画を定量的につくることだと捉えるとイメージがつきやすいでしょうか。
ここにブランディング視点を取り入れて、重要なポイントを加えると、それは企業の存在意義(パーパス)の明確化です。“自社の未来に必要な人材ポートフォリオ”は、存在意義(パーパス)を起点にした方が考えやすく、目指す未来から逆算してバックキャスティングで思考することで、現在の課題も自ずと見えてきます。

◎2つ目のグループは、「要素2知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「要素3リスキル・学び直し」「要素4従業員エンゲージメント」「要素5時間や場所にとらわれない働き方」。どちらかといえば、内部調達に主に関わる領域です。多様な働き方環境を整備して、社員のエンゲージメントを向上させながら、リスキリング推進することだと考えています。ここで重要なのは、 “現状の延長線上にないリスキル”、例えば、社内に先輩がいない職種を目指してもらうとか、今後必要なくなる職種からの自発的なジョブチェンジです。
このリスキリング推進が企業にとって一番頭を悩ませることかもしれません。ここでもブランディング視点で、とある調査結果を紹介します。

データ|ビジョン・理念・パーパスとリスキリングの関係
株式会社日本総合研究所 「【人的資本経営】【第7回】 人的資本経営概論 ~リスキリングに関する調査結果(後編)~」より引用
https://www.jri.co.jp/column/opinion/detail/14044/

Q「職場のビジョン・理念・パーパスを十分に理解しているか」

Q「あなたの職務で3-5年後の将来必要とされる能力を理解しているか」という設問に対する回答の平均値

調査結果によると、
〇ビジョン・理念・パーパスへの理解度が高いグループでは、週の学習時間が多い傾向
〇ビジョン・理念・パーパスへの理解度が高いグループでは、必要とされる能力への理解度が高い傾向

が見られます。これは、イメージしてみればそのとおりで、自分の会社の未来に対して理解しているということは、自分がその未来で何をしなければいけないか、何をするべきかを想像できている状態なので、エンゲージメントが高く、積極的にリスキルをしようとするという結果だと思われます。

◎3つ目のグループは〔視点3企業文化への浸透〕。この領域はブランディング視点というよりも、パーパスブランディングの取り組みそのものだといえます。「あなたの企業やサービスはなぜ社会に存在するのか?」この問いかけに対する“答え”となる企業やブランドのパーパス(存在意義)を策定することから、それを社員や従業員に浸透させていくことによって、企業文化として醸成されていきます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回の記事をまとめると以下になります。

・人的資本経営が注目されているのは、投資家から求められようになったから
・従来の人件費を下げて上げていく経営スタイルではなく、企業成長のために人材に投資して、その価値を向上させていくのが人的資本経営
・自社の未来に必要な「動的な人材ポートフォリオ」に構築するのが、人的資本経営の目的
・人材ポートフォリオを最適化するには、内部調達と外部調達がある
・人的資本経営のために存在意義(パーパス)は欠かせない理念

> IGIのブランディング事例はこちら https://igi.taki.co.jp/case






筆者|山田 久貴

Web Director
2011年Webプロデューサーとして入社。中小企業のコーポレートサイトをはじめさまざまなWebサイト制作に携わる。前職での実用書の編集経験を活かし、原稿ライティングのできるWebディレクターとして広範囲の業務領域に従事。現在はブランディングとWebの両面から企業ブランディングを支援している。


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